Linux Kernel(2.6)の実装に関するメモ書き

Radix Tree


1. 概要

Tree検索を行うRadix TreeのLinuxでの実装メモ。

Radix Treeの機能はlib/radix-tree.cで提供される。実際の使用例としては、ページキャッシュのページを管理するのにRadix Treeを使っている。

2. データ構造

LinuxでのRadixツリーの構造を図1に示す。


図1 Radix Treeのデータ構造

2.1 Treeの管理データ

Radix Treeの管理の大元のデータとしてstruct radix_tree_rootがある。このデータはRadix Tree関連関数でどのTreeに対して操作を行うのか指定するのに使われる。

このデータのrnodeがルートノード(Treeトップのノード)を指している。heightはTreeの高さを表しており、例えばheight=1だと、ルートノードのみの1段のTreeであることを意味する。

2.2 Treeのノード

Treeの各ノードはstruct radix_tree_nodeが使われる。

この構造体にはslots[]配列があり、子ノードへのポインタを保持している。末端のノードの場合はslots[]は検索対象のオブジェクト(item)へのポインタを格納している(*1)。子ノードやitemが無い場合はslots[]の該当要素にはNULLが格納されている。現状slots配列は64エントリ存在し、Radix Treeは64分木を構成することになる。

countフィールドは、そのノードに子がいくついるかを示すカウンタ。つまり、slots[]に有効なポインタがいくつ格納しているかを表している。

(*1) ページキャッシュのRadix Treeの場合は、itemはstruct pageになる。

2.3 検索キー

Tree検索時に使用する検索キー(index)はLinuxではunsigned long(32bit)値に限定されている。

検索キーは図1に示すようにRADIX_TREE_MAP_SHIFT(6) bit毎に区切られて扱われる。検索キーの区切られた各部分の値がTree各段のノードのslots[]のインデクスとなる(*2)。検索時は各フィールドの値を参照してTreeを下っていくことで、検索キーに対応するitemを取得できる。

[補足]

6bit区切りだと端数がでるので、検索キーの上位は2bitのみになる。このため、図1では1段目でも64分岐するように描いているが、実際には4分岐しかしない。

ページキャッシュのRadix Treeではページ(struct page)を登録する際、ファイル先頭からのページオフセットをindexにしている。このため、アクセスするデータのページオフセットから高速にページデータを取得できる。

(*2) 6bitで取り得る値は0〜63なので、slots[]は64エントリとなり64分木となる。

3. Treeの拡張

図1ではRadix Treeの高さが固定であるような描き方になっているが、実際にはRadix Treeの高さはエントリを追加した時に必要に応じて拡張されていくようになっている。

例えば、登録エントリの検索キーが0〜63の範囲に収まっている時は、Treeは1段しかない(図2)。

図2 1段のRadix Tree

ここで、検索キーが2000のエントリがRadix Treeに追加されると、Treeが2段必要になる。このため、Treeが1段拡張される(図3)。このように、Treeに登録されているエントリの検索キーの範囲に応じてTreeの高さが拡張される。


図3 2段に拡張されたRadix Tree

4. タグ

純粋なRadix Treeとは関係ないが、LinuxのRadix TreeではTreeに登録したitemにタグ(印)をつけておき、タグを元に検索を行うことができる。

[補足]

現在は、ページキャッシュでPAGECACHE_TAG_DIRTY, PAGECACHE_TAG_WRITEBACKの2種類のタグのみ使われている。これにより、ページキャッシュ上のWriteBackが必要なDirtyページを高速に検索できるようになっている。

4.1 ビットマップ

タグ付けしたエントリを検索する際、TreeをWalkしていたら遅くなってしまう。それなりに高速に処理できるように、ビットマップで管理するようになっている。

図1では省略したが、radix_tree_rootにはtags[][]配列があり、ここにタグの有無を示すビットマップが存在する。ビットマップの構造は図4のとおり。


図4 ビットマップ

まず、タグ毎にビットマップが存在し、tags[0],tags[1]が各ビットマップの先頭になる(*1)。ビットマップの各ビットはslots[]の各エントリに対応するので、1つのビットマップの大きさは64bitになる(64分木)。

このビットマップは子もしくは子よりさらに下にタグが付きのitemが存在する場合に、該当するslots[]のビットがセットされるようになっている(例:図5)。

タグで検索する時は、ビットマップをチェックしてビットが立っていなかったら、そのslots[x]配下はスキップすればよいので、それなりに速くタグ付きのノードを取り出せる。


図5 ビットマップの使われ方

(*1) 現状、使用しているタグはPAGECACHE_TAG_DIRTY, PAGECACHE_TAG_WRITEBACKの2種類のみで、ビットマップの数も固定サイズになっている。tags[0]がPAGECACHE_TAG_DIRTY用のビットマップで、tags[1]がPAGECACHE_TAG_WRITEBACK用のビットマップとなる。

関連関数

radix_tree_insert(*root, index, *item)
Treeへのエントリ登録
rootで指定したTreeにindexを検索キーとしてitemを登録する。

radix_tree_lookup(*root, index)
エントリの検索
rootで指定したTreeをindexで検索して、itemが存在すれば返す。

radix_tree_tag_set(*root, index, tag)
タグの設定
indexで指定されるitemにtagを付加する。

radix_tree_gang_lookup_tag(root, **results, first_index, max_items, tag)
タグによる検索
rootで指定したRadix Treeからtagが付加されているノードを返す。
ノードはresultsに返される。返り値がノード数になる。

最終更新 2007/06/06 19:34:51 - kztomita
(2007/06/06 16:57:27 作成)
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